Japan Typography Association

桑山弥三郎

ガリラヤの小さな都市ナインにある家の壁に付けられたオリーブをくわえたハトのレリーフ 1997撮影
ガリラヤの小さな都市ナインにある家の壁に付けられたオリーブをくわえたハトのレリーフ 1997撮影

平和の使者ハト

平和ポスターには白いハトが登場する。ハトは平和のイメージでありシンボルである。いつから平和の使者としてハトが用いられるようになったのか。人間の心像としてハトがふさわしいのか、所によっては他の動物が、例えば驚くことに牛や豚の方が平和と結び付けられている。平和とハトの結びつきは古くノアの時代にさかのぼる。西暦前2370年、大洪水を生き長らえるためノアを含めたその家族8人は箱船を建造する。箱船は長さ133m幅22m高さ13mという巨大な木造建造物で、文字通りの箱船であった。長さと幅の割合は6対1で現代船舶と同じである。神からの詳細な計画を授かって初めて成功する。内部は3階になり、総面積は約8,900平方メートルになった。屋根は4%の勾配をつけて張り、採光窓を付けていた。木材はイトスギを使い組み合わせて、すき間をふさぐために外側からも内側からもタールで覆った。

箱船が完成すると動物たちをつがいで2匹ずつ入れ、約一年間の食料を収納した。大雨が降り続いて、大地を覆い、箱船がアララト山上に到着して下船するまで約一年間かかる。それまでにノアはハトを放して、外の様子を見る。創世記は「ノアは自分の造った箱船の窓を開けた。そののち一羽の渡りがらすを放ったが,それはずっと外を飛びつづけて,水が地から乾くまで行ったり来たりしていた。後に彼は,水が地の表から引いたかどうかを見るために,一羽のはとを自分のところから放った。だが,はとはその足の裏をとどめる所をどこにも見いだせなかった。こうして水がまだ全地の表にあったため,それは彼のところへ,箱船の中へ戻って来た。そこで彼は手を出してそれを捕まえ,自分のところへ,箱船の中へ入れた。そして彼はさらにあと七日待ってから,もう一度そのはとを箱船から放った。その後,はとは夕方ごろに彼のところへやって来たが,見よ,むしり取ったばかりのオリーブの葉がそのくちばしにあった。それでノアは,水が地から引いたことを知った。そこで彼はさらにあと七日待った。それからそのはとを放ったが,それはもはや彼のところへ再び戻っては来なかった」。(創世8:6-12 新世界訳)ノアはハトがもち運んできたオリーブの葉を見て、下船できる明るい希望をいだく。このことからハトは世界の多くの所で、将来平和に生活することが出来る希望を与えるシンボルとなった。ハトは平和や希望の他に愛、真理、真実、知恵、信心深さ、英知、聖霊、復活、再生、清浄、純朴、正直、新生などの象徴として使われることがある。

戦後の1952年、日本専売公社(現在日本たばこ産業)は新しいたばこ「ピース」のパッケージデザインをアメリカの大デザイナーに依頼する。そのレイモンド・ローウィ は日本人の好む色、紺を用いて平和日本を象徴するオリーブをくわえた金色のハトのデザインをした④ことは日本のデザイン史に刻まれる出来事であった。このデザインは50年以上後の今日でも形を少し変えて使われている。ハトのシンボルデザインは多く、その中からオリーブの葉をくわえたシンボルを選んでみた。(1)(2)(3)

平和のシンボルの他の形も多用されている。ニューヨークの国連ビルの前にある公園には新しい彫刻作品(6)が展示してあるが、現代の平和を象徴するシンボルである。

日本を代表するシンボルに紋章があり、その中にはハトもある。ハトは西暦1180年頃の平安末期、出陣の時に士気を鼓舞するために放鳥された。ハトは戦いの時勝利を祈願する神である八幡宮の使者として、戦勝を知らせる鳥になった。皮肉にもノアと紋章は正反対の源泉になる。しかし武士の登場前の藤原期には植物観賞が盛んになり、植物とハトが組み合わされた寓生(ほや)紋が出現する。寓生紋は日本が戦国時代になる前の平和な良き時代の象徴であった。

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(1)メソジスト高校/ブラフォード・ラートン/アメリカ 2002(1)メソジスト高校/ブラフォード・ラートン/アメリカ 2002
(2)平和委員会/カロル・スリウカ/ワルシャワ 1988(2)平和委員会/カロル・スリウカ/ワルシャワ 1988
(3)平和部隊/サンドラグループ/アメリカ 1989(3)平和部隊/サンドラグループ/アメリカ 1989
(4)ピース 日本たばこ産業/レイモンド・ローウィ 1952(4)ピース 日本たばこ産業/レイモンド・ローウィ 1952
(5)日本の紋章/寓生紋(5)日本の紋章/寓生紋
(6)ニューヨーク国連ビル前の公園にある彫刻作品(6)ニューヨーク国連ビル前の公園にある彫刻作品

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